「ユーザーコミュニティで深める顧客理解とエンゲージメント」と題し、コミュニティ施策を通じて顧客体験の深化に取り組む先行企業様をお招きし、知見や失敗談を共有していただきました。 今回は、その後半部分である「なぜコミュニティを通じた共創に取り組むのか?」をテーマにしたパネルディスカッションのレポートをお届けします。
(前半はこちら)
(第二部)
パネルディスカッション
モデレーター
・コミューン株式会社 代表取締役COO 橋本翔太
パネラー
・株式会社凪スピリッツ 本部 経営サポート / 広報担当 朱 逸萍様
・株式会社オプテージ経営本部 モバイル事業戦略部 谷 真治様
・カゴメ株式会社 マーケティング本部広告部宣伝グループ課長 水野 慎也様
橋本:本日は皆さん、よろしくお願いします! 今回のパネルディスカッションでは「なぜコミュニティを通じた共創に取り組むのか?」というテーマで、なぜ各社がコミュニティ施策に取り組んでいるのかを掘り下げていければと考えています。
まずは各社が「ユーザーコミュニティをどのように定義しているか?」について伺えればと思います。水野さんはいかがですか?
水野さん:細かく定義はしていませんが、ユーザーコミュニティとは、私たちが運営するオウンドメディアを中心とした「カゴメ」とお客様における双方向なコミュニケーションの場だと考えています。
実際に『&KAGOME』を運営していく過程で、お客様との多様な接点はカゴメブランド価値の向上と商品への愛着に繋がっていくと確信出来ました。オンラインとオフラインをうまく融合することで、ファン化を促進していく。ユーザーコミュニティはそのための基盤と捉えています。
橋本:なるほど、谷さんはいかがですか?
谷さん:基本的に、ユーザーコミュニティは「ファンメイキングの場でありファンコミュニティ」という認識をしていますね。
私たち『mineo』は、「Fun with Fans!」という『mineo』を楽しみながら仲間(ファン)と一緒に新しいサービスや未来を創っていこう、というブランドステートメントを掲げています。ユーザーコミュニティは、ブランドステートメントを実践する場です。
朱さん:私は、ユーザーコミュニティを定義する前に、そもそも「コアのファンは誰か?」という問いに立ち返る必要があると考えています。
ユーザーコミュニティの定義は会社によって違うはずです。なので、まずは自分たちのファンを明確に認識してから、ユーザーコミュニティの定義を議論する必要があると考えています。
橋本:せっかくなので、参加者の皆さんからいただいている質問についても触れていきたいと思います。
いただいている質問の中にある「コミュニティを立ち上げる際の社内コミュニケーションについて、上司や上層部の理解を得る良い方法があれば是非教えてください!」は多くの参加者の方にとっても気になる部分かなと思いますが、谷さんはどのように進められたのでしょうか?
谷さん:私たちの場合は、そもそも契約者数が伸びていなかった当時の状況に対して、経営層も危機意識が高かったという前提があります。そこで、コミュニティ施策を「差別化による独自ポジションを築き、多くの方に選んで頂くための施策」と伝えていたこともあり経営層からの理解も得て、コミュニティを立ち上げやすかった背景があります。
先ほどもお伝えした部分ではありますが、自分たちで海外市場調査などを実施していくなかで、コミュニティ施策は上手くいくという確信がありました。加えて、立ち上げに関してはそこまで費用がかからないという点も伝え、スタートすることができました。
橋本:経営層や上司の理解は大切ですよね。
谷さん:実行に際して高額の予算が必要な施策は除いて、基本的には現場側に施策を任せてもらえていることは大きいですね。
また、コミュニティを運営していくことで外部からの評価が高まり、そこからさらに経営層の理解が深まった点も良かったと感じています。
水野さん:コミュニティの立ち上げの前に、カゴメを取り巻くビジネス環境の変化が前提にありました。その変化に対応するために必要なことであると経営層に対して継続的に説明していたことは、谷さんと共通している部分かなと感じます。
橋本:ちなみにコミュニティ施策の最初の一歩は、具体的にどのように進めていったのでしょうか?
水野さん:カゴメという会社の特性として、株主優待を目的とした個人株主がたくさんいました。施策当初は、既に一番近いユーザーである個人株主層に向けてアプローチし、その後、通販のお客様へと展開しました。
最初の施策ではわかりやすさを意識して、話題性のある新商品提供などを行いました。
橋本:なるほど。初期の施策を通してどのような示唆を得られたのでしょうか?
水野さん:アプローチするお客様一人ひとりに対するストーリー性が大事だなと改めて感じましたね。
例えば、お渡しする新商品が1個150円として、それをただ「150円の新商品です」と提供するのではなく、商品に関するエピソードなども添えてお届けしています。具体的なお話では、カゴメの開発者がどのような想いで商品を作ったのかというようなストーリーですね。
他で良かったのは、トマトの苗を送るというキャンペーンです。単なる苗ではなく、カゴメ社として特別なトマトの苗ですというエピソードを伝えているのですが、これがきっかけとなりファンサイトへの集客は高まっています。
朱さん:私の場合は、そもそも代表と二人で進めていった施策なので、会社としての理解は得られていました。ですので、どちらかというと社内で推進していくという雰囲気が強かったです。コミュニティ施策に取り組んだ背景としては、お客様との対話から得られる意見を経営判断の材料にしたいという考えでした。
例えば、LINEでアンケートを募るとファンからの回答が2~3週間で70~80件集まっていたのですが、コミュニティ施策を通じて、もっと意見を吸い上げていくことで、より正確な判断をしていきたいというのが代表の意見でしたね。
橋本:コミュニティを立ち上げていく中で外せない要素として、予算をどうするかという話があると思います。こちらは皆さん、どのように進められていらっしゃるのでしょうか?
谷さん:私が所属するモバイル事業部は40名程が所属しているのですが、その中に5名のファンベースを推進するチームがあり、そこでコミュニティ施策の企画/実行を行っています。
水野さん:カゴメの場合は、商品のマーケティング施策を担当する部署とユーザーとのコミュニケーションを担当する部署に分かれています。なので、後者の部署の予算として組み込んでいますね。
橋本:予算とセットになるKPIについては、どのように設定されていますか?
谷さん:『mineo』の場合だと、大きく5つのKPI、いわゆる管理指標を設定しています。
定量的なKPIとして、上記の①~⑤をそれぞれ追っています。加えて、定性的な評価の参考として、⑤を意識していますね。
橋本:最初の頃からこのようにKPIを置かれていたのですか?
谷さん:いえいえ、この指標は施策を運営しながらアップデートしています。最初の方は施策の量を追うのか、質を追うのかというような議論が多かったのですが、コアなファンからのリアクションが大事だよねということで、初期はコアな方に参加してもらえることを重視していました。
水野さん:私たちは、定量的なKPIはNPS®スコアで見ています。これまで4回NPS®を計測しているのですが、『&KAGOME』に参加いただいているお客様のスコアが圧倒的に高いこともあり、施策としての有意性はあると判断しています。
定性的な面では、「『&KAGOME』はマーケティング施策にも転用出来る」と啓発したことも社内で受け入れられた理由の一つです。
コミュニティ施策初期の頃は、私たちとマーケターとの間でコミュニケーションはなかったのですが、施策2年目からマーケターと協力し合いコンテンツ作りを始めました。マーケターは、お客様の声を商品開発に活かしたくても大きな予算を持ちません。そこでマーケターに提案しながら、『&KAGOME』にコンテンツを掲載したり、オフ会を企画したりしています。
橋本:私自身も聞いてみたい質問として、「コミュニティ内でネガティブな反応やご意見をいただく場合に、どのように対応しているのか?」が挙がっているのですが、皆さんどうしていますか?
谷さん:『マイネ王』内だと、「①ユーザー間における問題」と「②ユーザーから『mineo』への意見」の2つのパターンがあります。①については、問題が発生した場合には運営側から介入して、解決出来るように促しています。ただ、改善が難しい場合には、例えば投稿の非表示対応やアカウントを停止するという措置をとることもありますね。
②については、そのまま投稿を公開しています。誹謗中傷ではないご意見は大切な1人の声だと考えて、真摯に受け止めています。
ちなみに、ネットコミュニティがどうしても荒れやすいのは事実ですので、ハッピーメーターという機能をサイトに設けています。これは「ありがとう!」などのハッピーな投稿を自動的にカウントして可視化しているもので、一定数集まると桜の植樹を行い、リアルの場にもハッピーをお届けする活動をしています。
こういう機能で、ポジティブな方向に持っていくことも大事だと考えています!
朱さん:私たちの場合だと、コミュニティ内で「今日食べたラーメンがいつもより脂っこい」などの投稿をいただくことがあります。ファンの方はやはり、そういう変化に敏感ですよね。
これらの投稿に対しては、まずは素直に受け入れて現場に事実確認をしています。実際に事実があれば謝罪しますし、もちろん自分たちのポリシーである場合もあるので丁寧にお伝えするようにしています。
いずれにせよ、スピード感を持って対応することが大事だなと感じます。
水野さん:私たちも質問いただいた方と同じように、最初はかなり構えていましたね。検閲やエスカレーションフローもかなり作りこみました。ただ、実際にはそんなに問題は起きませんでした。(笑)
どちらかというと、薬機法などに抵触する可能性があるような投稿が出ないように気をつけていますね。社内で判断基準を設定していて、そこに反する場合は消しています。どうしてもグレーな投稿などは私が判断して、対応案を個別で考えていますね。
1つ事例があるのですが、ユーザー同士の意見がぶつかっていた状況に対して、お互いの意見を尊重しながら運営側として第3の道を提示するコンテンツを公開することで事態を収束させたことがあります。必要に応じて、運営側が適切に介入することはやはり大事だと私も思います。
橋本:ちなみに、競合の方がコミュニティに入ってくるリスクはどのように考えられていますか?
谷さん:正直、仕方がない部分だなと考えていますし、それ以上に得られる価値の方が大きいので過敏にならないようにしています。
水野さん:そうですね、こちらも基本的に見るのは自由です。
朱さん:本当に公開できない情報はないので、見られても問題はないと思います。あと、実際にメッセージでやり取りをするとどのような人なのかは分かるので、競合に限らず危なそうな場合は個別で考えています。
橋本:それではお時間も近づいてきたので、最後の質問に移りたいと思います。コミュニティを活性化させるために、どのようにアクションされているのかをお伺いさせてください。
朱さん:ユーザーの投稿に対して、必ずこちらからリアクションをすることを徹底しています。普段はキャラクターがアクションをするのですが、たまに社長が直接リアクションするとエンゲージメントが高まりますね。(笑)
あと、ユーザーがコミュニティに入った最初のコンテンツフローが決まっていて、「どのような食べ方をするのか?」というコミュニケーションをとることで、コミュニティに参加しやすい導線設計を工夫しています。
水野さん:同じことをやり続けていても飽きられて、離脱が発生します。そういう時に、投稿しなくなった人を観察することで見えてくるものがありますね。
皆さんに飽きられないように、常に新しい企画を考えていますし、社内からネタが来るようになった今でも、自分たちでネタを考える行動をとっています。ユーザーが何を求めているかにアンテナを張ることが一番大事なのではないかなと考えています。
谷さん:飽きられるってどうしてもありますよね。私たちも定期的に新しい企画やリアルイベントを継続するように意識しています。同じことをやり続けるのではなく、新しいことに継続して取り組むことでエンゲージメントは高まるなと感じています。
あと、細かいことをいうと、個別メッセージでユーザーに御礼などを直接送ることも多々あります。社員が昼休みなどの隙間時間でチェックする文化が根付き始めていることもあり、コミュニケーションが活発になる土壌があるので、そこに助けられていますね。
やはり、組織の文化としてどのように根付かせていくのかが大事だと思います!
橋本:皆さん、貴重なご意見ありがとうございました!
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