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カスタマーサクセスのKPI、何を設定すべき?主要な10種を解説

2024/03/27

カスタマーサクセスのKPI、何を設定すべき?主要な10種を解説

カスタマーサクセスは、一般的に顧客と向き合うタイムスパンが長く、大抵の場合は成果が遅行指標となります。だからこそ、進捗状況を段階的に可視化できるよう、適切なKPIを設定することが必要不可欠になります。

カスタマーサクセス担当者(CSM)のミッションは、顧客を成功に導くことで解約を未然に防ぎ、LTV(顧客生涯価値)を最大化することです。ではLTVを最大化するためのKPIとしてはどのようなものがふさわしいのでしょうか?

本記事では、カスタマーサクセス担当者が設定すべき主要なKPIを10種ピックアップし、理由を添えてご紹介します。カスタマーサクセスにおいて一般的にどんな指標が設定されるのか、自社に最適なKPI設定は何なのか、ご参考ください。

1. 指標①:チャーンレート

チャーンレート(解約率)とは、『契約中の顧客がサービスを解約した割合』です。

カスタマーサクセスがカギを握るSaaSやサブスクリプション形式のビジネスでは、特に重要視される指標です。これらのビジネスモデルは契約期間に応じて売上が変動するため「いかに継続して=解約されずに利用してもらえるか」が事業成長の鍵になるからです。

チャーンレートが高ければ、いくら新規顧客を獲得しても事業を成長させられません。底に穴のあいた桶に水を入れ続けているようなものです。穴を塞いで初めて水が溜まり始めるのです。

チャーンレートには大きく分けて、顧客数(カスタマー)を元にしたものと、収益(レベニュー)を元にしたものの2種類があります。

なぜ2種類あるのかというと、顧客によって単価に差があるためです。

例えば以下のような3社だけから収益があるとき、 Aだけがチャーンしてしまったときは、顧客数ベースで見ると解約率は33%です。一方で収益ベースで見ると解約率は70%になってしまいます。

そのためビジネスインパクトを適切に捉えるためには、両方のメトリクスを計測する必要があるのです。どちらをメインにするかは事業フェーズによって異なるでしょう。一般的に、初期顧客数ベース中期以降収益ベースで見ることが多いです。

カスタマーチャーンレート

顧客数をベースにしたチャーンレートで、『期首の時点で契約している顧客のうち、期間内に解約した顧客の割合を表す指標』です。

カスタマーチャーンレート=期間内に解約した顧客数÷期首の顧客数×100

レベニューチャーンレート

収益をベースにしたチャーンレートで、『ある時点であげた収益のうち、一定の期間内に減少した(増加した)収益の割合を表す指標』です。

レベニューチャーンレートは、収益の減少のみに着目する場合と、増加も含める場合の2種類あります。

①グロスレベニューチャーンレート
『解約やダウングレードなど収益を減少させる要因のみにフォーカスし、一定期間内で生じた損失額の割合を表す指標』です。

グロスレベニューチャーンレート=期間内の損失額÷期間内の総収益×100

②ネットレベニューチャーンレート
『解約やダウングレードなどの減少要因に加えて、アップセルやクロスセルなどの増加要因も含めて、一定期間内で生じた損失額(利益額)の割合を表す指標』です。

ネットレベニューチャーンレート=(期間内の損失額 − 期間内の利益額)÷期間内の総収益×100

ネガティブチャーン

ネットレベニューチャーンレートは、変動した収益全てを考慮するので、最終的に増収していればマイナスの値になります。そして、このマイナスな状態をネガティブチャーンと言います。

つまり、解約やダウングレードによる収益減を、アップセルやクロスセルなどの収益増が上回っている状態のことです。

ネガティブチャーンとは、いわば既存顧客からの収益のみで事業が成長している状態です。新規顧客の獲得に左右されないので、かなり安定して事業成長していると言えるでしょう。また、新規顧客の収益はそのまま上乗せされるので、より事業成長のスピードが加速します。

2. 指標②:リテンションレート(維持率)

リテンションレート(維持率)とは、『契約中の顧客がサービスを継続する割合』のことです。前述のチャーンレートと裏返しの関係にあり、計算式としてはリテンションレート=1 − チャーンレートが成り立ちます。

リテンションレート=期間内に継続した顧客数÷期首の顧客数×100

特にSaaSやサブスクリプション形式のビジネスにおいてはリテンションレートが高くなるほど安定的に売上が上がるような構造になっており、重要なKPIと言えます。

チャーンレート(解約率)の場合、顧客数と収益をベースにしたものの2種類がありましたが、リテンションレート(維持率)は、収益をベースにすることが一般的です。

NRR

『契約中の顧客の収益が、維持されている割合』のことです。
Net Retention Rateの略で、直訳すると「売上維持率」となります。

収益をベースにしたリテンションレート(維持率)で、1ヶ月毎や1年毎で算出されることが一般的です。

NRRが高ければ高いほど、カスタマーサクセスやプロダクトが顧客の期待に沿うような価値提供をできていると考えられ、自社の持続的な成長が期待できます。

NRRは過去の一定期間と比較される
NRRは、前年度の同時期に獲得した売上が、今どの程度になっているのかを見る指標です。また、同様に、現在の売上が、来年の同時期にどの程度になっているのかを予測するためにも使われます。

そのため、レベニューチャーンレートと求めるものは同じですが、レベニューチャーンレートは算出期間の期首と期末の変化を比較する使われ方が多いのに対し、NRRは「前年度」あるいは「前年度の同月」といったように過去の一定期間と比較する使われ方が多いことが特徴です。

NRRの計算方法
1ヶ月を算出単位とした場合、計算式は以下の通りです。

A = [前年度の同月に新規獲得と契約更新をした顧客のMRR]
B = [Aと同じ顧客の今月のMRR]

Net Retention Rate = B ÷ A

 

※MRR (Monthly Recurring Revenue)とは、毎月決まって得られる1ヶ月分の収益を表す指標です。日本語では月間経常収益と言います。

注意すべきは、AとBの期間の間に獲得した新規顧客はカウントに含まないということです。

例えば、上図の場合、21年11月のNRRを計算するとしたら、対象に含まれるのはA、B、C、D社となり、E社は含まれません。あくまで、昨年の同時期に獲得していた売上が、今どの程度になっているのかを見るのがNRRです。

そのため、NRRは以下のようになります。

NRR = [B](100 + 120 + 60)÷[A](100 + 100 + 80 + 80)= 78%

算出した数値が100%を上回っていれば、アップセルやクロスセルといった売上増加の方が、解約やダウングレードといった売上減少よりも勝っているということです。

実際、成長率が高い企業ほどNRRは高くなる傾向があります。目安として、アメリカの上場SaaS企業のNRRの中央値は117%と言われています。

※参照元:SaaS IPO Net Dollar Retention Benchmarks

3. 指標③:オンボーディング完了率

オンボーディングとは、顧客が自社の提供するサービス・プロダクトを使いこなせるようになるまで支援するプロセスのことです。

すなわち、オンボーディング完了率とは『支援が完了した顧客の割合』です。

ではなぜオンボーディング完了率が重要なのか?
それは、長期間オンボーディングが完了しない顧客は解約リスクが高くなるからです。

オンボーディング完了率が特にカスタマーサクセスにおいて重視される理由

カスタマーサクセスにおいて、オンボーディングの重要性は強調してもしきれません。なぜなら、オンボーディングに失敗してしまうと、その後、顧客がサービス・プロダクトを利活用し成果を実現することはかなり難しくなるからです。

利用方法や価値が伝わらなければ、その後積極的に活用されることはありません。また、オンボーディングフェーズは、導入直後ということで顧客の熱量も高いケースが多く、こちらからの働きかけにも反応が良い傾向があります。このような状態でオンボーディングに失敗してしまえば、その後、顧客が能動的にリカバリーしてくれることは期待できないでしょう。

「せっかく導入していただいたのに、ほとんど利用されることなく解約された」という経験がある企業や組織も多いと思いますが、その原因の多くがオンボーディングの失敗です。

そのため、多くの企業がオンボーディング完了率をKPIに設定しております。

オンボーディングはカスタマーサクセス組織の成熟度が如実に現れる

オンボーディングは、カスタマーサクセス組織の成熟度が如実に現れる部分でもあります。サービスの提供者側にとって、オンボーディング最も工数がかかるフェーズですが、同時に仕組み化や自動化によって工数を削減しやすいフェーズでもあります。
そのため、「どれだけ効果的かつシステマティックなオンボーディングを提供できているか」が、カスタマーサクセス組織の成熟度を測るものさしになるのです。

特に、サービス・プロダクトが優れているほど、このフェーズに流入する顧客は増えていくため、より磨き上げられたオンボーディングが求められるようになります。

4. 指標④:アップセル/クロスセル率

アップセル・クロスセルは、アプローチは異なるもののどちらも既存顧客の単価を向上させる手法になります。

アップセルとは、既存顧客に対し、さらに上位のサービス・プロダクトに乗り換えてもらうことです。

クロスセルとは、既存顧客に対し、現在契約しているサービス・プロダクトに加えて、さらに別のサービス・プロダクトを購入してもらうことです。

アップセル・クロスセルがどれだけ行われているのかを測る指標がアップセル・クロスセル率です。

アップセル・クロスセルはカスタマーサクセス部門主導で行われることが多く、カスタマーサクセスの売上貢献度合いを可視化できるため、重要なKPIと言えるでしょう。

アップセル・クロスセルはタイミングを見極めることが重要

とはいえ、むやみにアップセル・クロスセルを提案することは、顧客からの評価を下げてしまうことにつながりかねません。

アップセル・クロスセルが成功するのは、サービスやプロダクトへの満足感や企業への信頼感があってこそです。

アップセル/クロスセルを行う際には、下記のように個社ごとの状況を鑑みた提案が重要となります。 ・サービスの利用頻度が高い顧客に対してアップセル提案を行う ・他のサービスと関連性の高い機能をよく活用している顧客に対しクロスセル提案を行う

5. 指標⑤:LTV

LTVとは、『ある顧客が取引を開始してから終えるまでの間に、その企業にもたらした利益の総額』のことです。

LIfe Time Valueの略で、直訳すると顧客生涯価値となります。その名の通り、利益の算出期間が顧客の生涯にわたることが特徴です。

カスタマーサクセスは継続的に顧客との関係性を高め、結果的に売上向上につなげるための取り組みと言えますが、LTVはまさにその取り組みの成果が表れる指標と言えます。

LTVが重要視される背景

近年、既存顧客からの収益を安定・拡大させることが注目されており、LTVは非常に重要視される指標です。その背景として、市場の飽和価値観の変容といった要因が挙げられます。

(1)市場の飽和
市場が成長している段階であれば、新規顧客の獲得により事業を伸ばすことができます。そのため、魅力的な商品の企画やプロモーションに注力することが経済的に合理性の高い行為でした。

しかし、市場が飽和するにつれて、次第に新規顧客の獲得が難しくなります。プロダクトやサービスが行き渡っている状態では、新たな需要を生み出すことは容易ではないからです。

そのため、既存顧客と長期的な関係を築き安定して利益を上げることが重視されるようになってきます。

(2)価値観の変容
また、「所有」ではなく「利用」が一般的になってきたことも、既存顧客の維持が重視されるようになった要因の一つです。

市場が飽和し良質で安価なモノが行き渡ることで、所有することがステイタスではなくなってきました。そこで、新たに登場したのが利用という選択肢です。シェアリングエコノミーに代表されるような、必要な時に必要な分だけ利用するという形態が一般化することで、顧客は必ずしも所有という選択肢を取らなくなりました。
こうして、ますます新規顧客の獲得が難しくなる一方、利用型のサービスを提供する企業は既存顧客を繋ぎ止めることが必要になってきます。

6. 指標⑥:NPS®

NPS®(Net Promoter Score)とは、『プロダクトやサービスに対する顧客ロイヤルティの度合いを測る指標』です。

NPS®のスコアによって、回答者(顧客)がそのプロダクトやサービスの熱烈なファンなのか、それなりに満足はしているが簡単に離脱してしまう程度なのか、あるいは不満を抱いているのかが判断できます。
カスタマーサクセスによって顧客の自社へのロイヤルティを高めることが自社の事業成長につながるSaaS/サブスクリプションモデルのビジネスにおいて、重要なKPIのひとつと言えるでしょう。

顧客ロイヤルティとは

顧客ロイヤルティとは、企業自体やプロダクト・サービスに対する顧客の信頼度や愛着度を示すものです。Loyalty (ロイヤルティ)という単語は、忠誠心や愛情を意味します。

ロイヤルティの高い顧客には以下のような特徴があります。

・自社のプロダクト・サービスを何回も購入・利用してくれる
他者へおすすめしてくれる
・建設的かつ貴重なフィードバックをもたらしてくれる

このような顧客は、企業にとって非常に価値のある存在です。市場競争が激しさを増す中で、多くの企業が「数ある製品の中から常に選んでくれる」「周囲にもすすめてくれる」ような顧客を創り出したいと思うのではないでしょうか。

顧客ロイヤルティだけが企業の成長を決定する要因ではありませんが、収益性の高い継続的な成長を、顧客ロイヤルティの向上を伴わずに実現・維持することは至難の業です。

NPS®の計測方法

NPS®の計測方法は2ステップで、とてもシンプルです。

①顧客に対して「このプロダクト・サービスを友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」と質問し、0~10点の11段階で回答してもらう(0点は全くすすめない、10点が猛烈にすすめる)

この回答に応じて、顧客は3つのセグメントに分類されます。

推奨者:9〜10点と回答
→その企業のファンであり、積極的に周囲の親しい人にすすめてくれるロイヤルティの高い顧客

中立者:7〜8点と回答
→好意や熱意よりも惰性が動機付けとなっていると考えられ、きっかけがあれば離反し競合へなびいてしまう顧客

批判者:0〜6点と回答
→不平や不満を感じており、周囲の親しい人にネガテイブな情報を発信する可能性の高い顧客

②「推奨者」の割合から「批判者」の割合を引く

このスコアがNPS®のスコアになります。

仮に100人に調査を実施し、「推奨者」に分類された顧客が40人、「批判者」に分類された顧客が30人いた場合、それぞれの割合は「推奨者」40%「批判者」30%となるため、NPS®のスコアは、

NPS®=40-30=10

となります。

計算方法からも分かる通りNPS®のスコアは、「批判者」しかいないことを表す-100から「推奨者」しかいないことを表す+100のどこかに当てはまり、「推奨者」が多く「批判者」が少ないほど高まります。

NPS®のスコアは業績との連動性が高い

顧客ロイヤルティを測定する指標の中でも特に、NPS®は業績成長との相関が強く観測されている指標になります。その理由は以下の2つに集約されます。

①将来の行動を聞いている
まず一つ目は、将来の行動を聞いているという点です。

顧客満足度調査の場合、基本的に「満足していますか」というように”過去”の体験とそれに伴う”現在”の感情を質問します。そのため、仮に「満足している」と回答した場合であっても、必ずしも”未来”の行動(継続購入や他者への推奨)につながるわけではありません。

しかし、NPS®では「親しい人にすすめますか」という”未来”の行動を聞きます。したがって、顧客の将来的な実際の行動を、より反映した回答を得ることができるのです。

②ストレスのかかる行動を聞いている
二つ目は、ストレスのかかる行動を聞いているという点です。

“親しい人にすすめる”という行為は、その人との関係性に少なからず影響を及ぼすため勇気がいるものです。同じ将来の行動を聞くにしても、「また買いますか」のように自分だけで完結してしまう行動を聞くよりもストレスは強いのではないでしょうか。

だからこそ、NPS®で9〜10点の回答をした顧客は、実際に親しい人にすすめる可能性も高くなると言えます。

7. 指標⑦:CSAT

CSATとは『企業やプロダクトに対する満足度をはかる指標』のことです。顧客の感情にフォーカスしているので、感情的スコアと呼ばれることもあります。Customer Satisfaction Scoreの略で、直訳すると顧客満足度になります。

カスタマーサクセス活動などを通じて顧客に満足してもらえれば、契約を継続してもらえる可能性が高まります。顧客から継続的に利用してもらえることが自社の事業成長に直結するSaaS/サブスクリプションモデルのビジネスにおいて、重要なKPIとなるでしょう。

CSATの計測方法

実は、CSATには決まった計測方法はありません。質問の内容や手段、タイミングも任意です。したがって、自社に適した方法を選ぶと良いでしょう。

質問の内容として一般的なのは、「大変不満」「やや不満」「普通」「やや満足」「大変満足」のような五段階で評価を求めるものです。

あるいは、サポートページで「問題は解決しましたか?」と聞くように、特定の行為がうまくいったかどうかに焦点を当てることもあります。

アンケート
質問の方法として広く活用されているのは、アンケート調査です。Webサイトにアンケートフォームを設置したり、対面での案内や契約後にアンケート用紙を記入してもらったりと、さまざまな依頼方法があるでしょう。近年では、SNSやアプリを活用する方法もあります。

インタビュー
アンケート以上に詳しく調べたいという場合には、インタビューでの計測がおすすめです。アンケートのように決まった質問に回答してもらうだけでなく、その場に応じて柔軟に質問を変えられるので、具体的な情報を引き出しやすくなります。

電話調査
インタビューほどコストがかけられないという場合には、電話調査が有効です。おそらくアンケートよりは柔軟に対応できるでしょう。ただし、視覚的な要素が使えないので、口頭で理解できる質問形式に限られてしまいます。

CSATとNPS®の違い

CSATとNPS®の違いは質問内容に表れています。

CSATは「サービス・プロダクトに対して満足していますか?」と聞きます。つまり、顧客は「目の前のサービス・プロダクトについて、自分は今どう感じているのか」を答えるのであり、顧客が満足を感じているかどうかを考える対象は特定されていることが多く、短期的・限定的なものになりやすくなります。

一方で、NPS®は「このサービス・プロダクトを友人や同僚にすすめる可能性はどのくらいありますか?」と聞きます。つまり、顧客は「これまでの経験を振り返って、総合的に自分はこのサービス・プロダクトをどう感じているのか」を答えるのであり、顧客が満足を感じているかどうかを考える対象は特定されておらず、長期的・全体的なものになります。

したがって、新サービスの発売や商品の改善についての評価を知りたいときはCSATの方が相性は良いでしょうし、競合が新商品を出した際に他社製品にどれくらい乗り換えてしまうのかを知りたいときはNPS®の方が相性は良くなります。

8. 指標⑧:クチコミ・紹介によるお問い合わせ数

カスタマーサクセスは既存顧客からの収益を最大化するための活動です。しかし、既存顧客との関係性を強化することで、結果として新規顧客の獲得につながることもあります。 つまり、既存顧客が知り合いにクチコミや紹介という形で自社サービス/プロダクトを広めてくれることがあるということです。

カスタマーサクセスを通じて新規顧客の獲得にまでつなげたいという場合、成果を測る指標としてはクチコミや紹介によるお問い合わせ件数がふさわしいでしょう。

では、クチコミや紹介によるお問い合わせを増やすためにはどうすれば良いのでしょうか?

ここでは、既存顧客のカスタマーサクセスを通じて新規顧客の獲得に繋げるマーケティング手法を2つ紹介します。

アンバサダーマーケティング

アンバサダーマーケティングとは、自社のサービス・プロダクトに対して好意・愛着を持つ、いわゆるファンの方に宣伝をしてもらうマーケティング手法をいいます。

「アンバサダー(Ambassador)」は英語で「大使、使節」を意味します。自社サービス・プロダクトを愛用している方が、SNSアカウントやブログなどで自発的に情報発信を行ってくれる様子を「大使、使節」に見立てているわけです。

アンバサダーは普段から使用しているので使用感や感想、魅力を顧客目線で伝えることができます。また、好意や熱量が元になっているので、信頼感や説得力もあります。このように一顧客から発せられる言葉は、消費者の心を動かしやすく非常に効果的なPR施策だと言えます。

コミュニティマーケティング

 

コミュニティマーケティングは、その名の通り、ユーザーコミュニティを活用したマーケティング手法のことです。

コミュニティにおけるユーザー同士のやり取りや、ユーザーと企業のやり取りが、未顧客を引きつける魅力的なコンテンツになりえる場合、コミュニティコンテンツがメディア価値を持つ資産として機能します。

コミュニティに力を入れている企業例として、ベースフード株式会社は、利用者が交流したり新しい企画を生み出したりするコミュニティ「BASE FOOD Labo」を運営しております。

このコミュニティは一部が誰でも閲覧できるよう一般公開されており、まだベースフードを試したことのない方に興味を持っていただくきっかけになっています。

▼ベースフード株式会社の取り組みについて詳しくはこちら
ベースフード株式会社vol.2「ユーザーがユーザーに働きかける好循環。コミュニティ内の投稿が商品理解の促進と新商品アイデアの源泉に」

9. 指標⑨:CSQL

CSQLとは、Customer Success Qualified Leadのことで、『カスタマーサクセス活動によって生み出され、一定の基準を通過した(Qualified)リード』のことです。

マーケティングによって生み出され一定の基準を通過したリードをMQL(Marketing Qualified Lead)と言いますが、それのカスタマーサクセス版と考えていただくとわかりやすいと思います。

CSQLはアップセルやクロスセルの機会につながるリードであり、カスタマーサクセスの成果としてわかりやすく重要な指標となるでしょう。

CSQLの成約率が高い理由

カスタマーサクセスは顧客を伴走支援します。そのため、マーケティングやセールスの段階ではできないような深い顧客理解ができ、非常に見込みが高いリードを生み出すことができます。

例えば以下のような情報を把握することができるしょう。

・顧客組織の成り立ち/歴史

・在籍している人物層(特に主要なステークホルダーや意思決定者との関係性)

・プロダクト/サービスの利用方法、利用状況データ

・極めて個別具体的な課題感

・提案のベストなタイミング

こうした深い顧客理解と、これまで築いてきた信頼関係によって温度感の高いリードを生み出すことができるのです。

10. 指標⑩:ヘルススコア

ヘルススコアとは、文字通り”顧客の健康状態”を表す指標のことで、顧客が今後も自社サービスを継続的に利用してくれるかを判断するために設定されるものになります。

人間が健康診断を受けると、「体温や心拍数は正常」「血液に重大な問題は見られないが、コレステロール値がやや高い」「理想的な体重よりも5kg重い」といった結果が得られ自身の健康状態を把握することができますが、ヘルススコアもまさに同じような機能を果たします。適切に設計されたヘルススコアなら、顧客の健康状態を把握することができ、寿命がどれくらいなのか=契約継続期間はどれくらいか、を判断することができるのです。

注意点としては、「解約しそうな顧客を判別する」ために設定された指標の総称をヘルススコアと呼んでいるのであって、具体的な指標のことを指しているわけではありません。

健康診断の例で言うと、健康状態を把握するために「体温」や「心拍数」「体重」といった指標を使用すると思います。このように健康状態を把握するために使用する指標を総称してヘルススコアと呼ぶわけです。

ヘルススコアを設計するメリット

①解約の防止に効果的
ヘルススコアを設計することで、解約の兆候が掴めるので、事前にアクションが取れます。もしヘルススコアがなければ、顧客の行動変化がブラックボックス化してしまい、契約更新のタイミングでフタを開けては一喜一憂することになってしまうでしょう。

これでは、解約を抑止することも、原因を把握し次回以降に対策を立てることもできません。兆候を掴めるからこそ、抑止に動けるのです。

②カスタマーサクセスの対応負荷の削減
カスタマーサクセス担当者の限られたリソースを有効に活用するためには、効率的な対応が不可欠です。ヘルススコアを設計することで、どの顧客を優先的に対応すべきか、逆にどの顧客はサポート頻度を減らして良いか、といった判断ができるようになります。

また、ヘルススコアが共通言語として機能するので、社内コミュニケーションという意味でも負荷を減らすことができます。

ヘルススコアの設計方法

ヘルススコアは、会社によって本当に様々です。「ログイン回数・頻度だけで十分」というところもあれば、20個ほどに細分化して設定しているところもあります。中には、CSMの定性判断のみというところもあるでしょう。

しかし、具体的な指標の違いは、実は大きな問題ではありません。

いずれにしろ大切なのは、”何に”決めたかではなく”どう”決めたかです。

目的「解約しそうな顧客を判別する」から逆算する
ヘルススコアの目的は「解約しそうな顧客を判別する」ことです。この目的を達成できるヘルススコアこそ優れたヘルススコアであり、必要なチェック項目が企業によって異なっていたとしても、扱っているサービスや顧客が違うことを考慮すれば自然なことです。

この目的から逆算して考えると、最も有効な設計方法は、「実際に解約した顧客に共通する特徴を洗い出し数値化する」ことになります。つまり、顧客の不健康な状態を起点に考えるということです。

多くの物事において、成功よりも失敗の方が科学しやすいと言われておりますが、それはカスタマーサクセスであっても同様です。健康の定義、すなわち理想の状態の定義は、幅広く捉えることができます。それに対して、不健康な状態であれば、解約というゴールがはっきりしているので、共通する特徴が炙り出しやすくなります。

カスタマーサクセスマネージャーの肌感覚も重要
その際、無視してはならないのが、カスタマーサクセスマネージャーの肌感覚です。日頃から顧客と直接向き合うことで蓄積された経験値は侮れず、大概は「こういう顧客はチャーンしやすい」「担当者の対応が遅れ始めたらアラート」といった、直感的な指標を持っています。この感覚知をヘルススコアに生かすことで、数値だけでは見逃してしまう僅かな顧客の”サイン”に気づくことができるのです。

これは、人間の身体でも同じでしょう。全てを検査結果の数値で判断できるほど、人間の身体は単純にできていないはずです。だからこそ、数値に現れない部分も含めて、患者の訴えや様子、数値の組み合わせ等で総合的に判断することのできる医者が重宝されているのです。

人と向き合う仕事なら、このような数値では割り切れない側面は必ずあるはずです。

また、肌感覚を取り込むことはヘルススコアに対するメンバーの納得感の醸成にもつながります。結局のところ、信じていない指標は誰も追いかけません。カスタマーサクセスマネージャーが顧客と向き合う中で得た感覚と指標を一致させることで、感覚と乖離していない信頼に足るヘルススコアになるのです。

『戦略とは追いかける指標を決めることだ』という言葉があります。ひとたび指標が設定されれば、日々その指標を達成するためにはどうしたら良いか、を考えるようになるでしょう。つまり、指標が視線の向く先を決めるということです。

もし不適切な指標が設定されていたら、いくら頑張ってもゴールには辿り着かないはずです。だからこそ、ふさわしいKPIを設定することが大切なのです。

カスタマーサクセスで使用される指標はたくさんありますが、最終的に達成したいKGIから逆算してKPIに落とし込むと良いでしょう。